グラフィックデザインの仕事で 扱うクライアントの業種の分野について お話ししたいと思います。前の記事、「グラフィックデザイナーの仕事とは、どんな仕事か?」(▶)の続編です。
グラフィックデザインが扱うクライアントの業種の分野は、「ありとあらゆるもの」と言っていいでしょう。
色々な分野にかかわる可能性
前の記事で、グラフィックデザイングラフィックデザインの仕事は、クライアントがあって初めて成り立つ、二次的な仕事だとお話ししました。
グラフィックデザインは、このように二次的だからこそ、デザイナーは、色々な分野にかかわる可能性を持っています。
例えば「ポスター」といっても、環境についてうったえるものもあれば、選挙のポスターもあったり、新発売の自動車のポスターもあれば、アパレル業界のファッションブランドのポスターもありますし…どんな分野でも扱う可能性があります。
エディトリアルデザインを考えれば、発行されている本や雑誌がテーマとして扱っているさまざまなことすべてに関わる可能性を持っています。
もし、まだこれからデザイナーとして転職しようとしているならば、「どんな分野がいいのか?」ということを考えてみることをオススメします。
というのは、前の記事で、多くのデザイン会社は「広告系」と「エディトリアル系」で、どちらかにかたよっているとお話ししましたが、「分野」についても同じような「かたより」があるからです。
「ファッション関係が得意な会社」
「車関係が得意な会社」
「インテリアが得意な会社」
「健康食品が得意な会社」
または、いくつかの分野を得意としているということもあるかも知れません。
また、これも前の記事でお話しした、「露出度の高いレベルの高い仕事」ということも合わせて、自分がどの分野でどんな仕事をしたいのか、考えてみる必要があります。
自分に向いている分野を知る手がかり
そこで、例えば
「大手出版社の女性ファッション誌のエディトリアルデザインをやりたい」
と思ったとします。
「大手出版社の女性ファッション誌のエディトリアルデザイン」は、やってみたいと思う人は多いのではないでしょうか?
個人的には最もハードルの高い仕事のうちの一つだと感じます。
ライバルも多い上に狭き門です。
もし、これ一つをねらいうちにしてしまうと、「グラフィックデザイナーになる」という別のチャンスを逃してしまうかも知れません。
そういうときに、自分のこだわりどころはどこか、再検討してみます。
「ファッションという分野」にとてもこだわりを持っているなら、他のエディトリアルを目指すよりも、ファッション関係にかかわる別のグラフィックデザインを考えてみます。「カタログ」ならばどうでしょうか? または、ファッション関係のインハウスデザインというのもあります。
ファッション関係はそもそも人気があってエディトリアルでも広告でもハードルは高いと思いますが、少し選択肢は広がりました。
エディトリアルということを重視するなら、他の分野も検討できるかと思います。
他のエディトリアルで仕事のスキルを磨きながら、次のステップとしてファッション関係へのチャンスも狙うということもできます。
大手出版社というレベルではなく、ここのハードルを下げて、自分のつくりたいものに近いものを探していけば、意外と「やっていて楽しめる」というものに出会えるかも知れません。
また、ファッションという分野がいいと思ったのはなぜでしょうか?
「女性向けの」とか「かわいい」とか、そういうアプローチが好きだったり、たくさんの引き出しを持てそうだと感じているからかも知れません。
そうなると、やって楽しめる分野というのは格段に広がっていきます。
女性をターゲットとしているほとんどものを楽しくやっていけそうです。
現実的な、各デザイン会社による偏り
グラフィックデザインは、二次的な仕事であるという特性上、どんな分野にでも携われる可能性を持っています。
でも、現実的には、多くのデザイン会社は何かにかたよっています。
それは、結局、グラフィックデザイナーは人間であって、デザイン会社はその人間が作ったものだからなのではないでしょうか?
デザイナー個々の得意、不得意といった個性がどうしてもどこかに反映されてしまうということだと思います。
また、一度にまかないきれる仕事の量や、「どんなクライアントと取引があるか」ということにも左右されるでしょう。
「何でもやりたい!」と思っても、どうしても「この分野にはたくさんの引き出しを持てそうだし、引き出しを増やしていかれそうな意欲もある」というものと、「どうたたいても、自分の中からはたいしたものは出て来ないだろう」と感じる分野はあります。
でも、何かチャンスに恵まれたら、あまり興味がないと思っても「やってみると意外と楽しかった」ということもあるので、やれるのであればやってみた方がいいと思います。何か新しいことに出会ったとき、「面白そうだやってみよう!」と、前向きに反応する人の方が、個人的にはグラフィックデザイナーに向いていると思います。
ただ、前述のように、グラフィックデザインはどんな分野にでも携われる可能性を持っていますが、現実的に自分が携われるのは、まず、入社した会社で扱っている分野だけです。特にちいさな制作会社などでは、「ずっと、この媒体のこのカテゴリーを専門でやっています」ということもあるのです。
もし自分がずっとそれをつきつめていきたいなら、このことは良いことです。
でも、これは、言い換えれば、この会社にいる限り、「10年間同じようなものだけを作り続ける」ということでもあり、「もっと別のものをやりたい」という人は、ここで修行をつんだら転職するか、もっと大きな、色々なものを制作できる環境を探す必要があるでしょう。
(ちなみにわたしは一年間やって、次のステップにいきました。わたし自身が「もっと別のものをやりたい」タイプの人だったからです)
モラルについて考えることと、関わらない方がいい分野
それから、「分野」に関しては、「自分自身のモラルの基準」というのも考える必要があります。
例えば、「タバコが大嫌い」という人がいたとします。目の前に
「大手広告代理店の露出度も高い広告系の仕事、タバコでは有名な大手企業がクライアント」というチャンスがやってきたとします。
特に広告系の仕事は、クライアントのかわりに、クライアントの立場に立って、クライアントの利益になるように、より多くのユーザーを獲得するために何かをデザインしなければなりません。
これは、「大嫌いで撲滅したいとさえ思っているタバコを、自分の信条とは逆に「広める』ということをする」ということです。
「タバコは大嫌いだと思っていたけど、吸う人やクライアントの立場にたってみると、良いところもあるのだ」
「タバコは大嫌いだけれど、ここはひとつ割り切って、自分のスキルアップのためにもこの仕事にはチャレンジしてみよう」 等
と思えるのであれば、この方はこの仕事を楽しく、やりがいを持ってやってみることができると思います。
「タバコは大嫌いだから撲滅したい。こんな仕事はグラフィックデザインなどとはとても言えない」 等
と思ったら、この方はこの仕事をやれないでしょう。
どんな反応が正しいということはないです。
「自分はどういう人か?」
ということを知っておくということです。
ただ、あまりにも「あれもこれも大嫌い、絶対に無理!」というようなことが多すぎる人は、広告系でもエディトリアル系でも、グラフィックデザイナーには向いていないのではないかと、個人的には思っています。
(だからといって、本当にとても嫌だなと思う分野には、足を踏み入れない方が幸せかなと思います。個人的にはアダルトは自分には無理と思っています。たとえエディトリアルに興味があってもビニ本のエディトリアルだったら逃げる…)
まとめ
グラフィックデザインは、二次的だからこそ、デザイナーは、色々な分野にかかわる可能性を持っています。
でも、個々のデザイン会社には扱う分野に関して偏りがあるため、一生一つの分野だけで、同じようなものだけを作り続けることになる可能性もあります。
キャリアの選び方によって、その状況は変わってきますが、多くのデザイナーは、全部の分野ではなく、たった一つの分野だけでもなく、「いくつか複数の分野」に関わっていると思います。
DTPスクールに行っていた頃、スクールで、「バイクの雑誌をやりたくてDTPを習いにきた」という人がいました。この人はエディトリアルデザインだけでなく、編集から何からすべてやるつもりだったようです。アタマの中は「バイク一色」。おそらく、大好きな「バイク」という分野ひとつだけで幸せという人だったと思います。
結局「自分がやっていて楽しめる」というところが大事ですね。