デザイナーの就職活動や転職活動の必須アイテム、ポートフォリオ。そのポートフォリオに載せる作品の著作権について書きたいと思います。私はこのブログで、特にデザイン初心の方に向けて「雑誌のリデザイン」をやってみると良いですよ、ということを書きました。それで、リデザインした作品を、就職活動のポートフォリオに入れることも提案しています。
今回は、この「雑誌のリデザイン」を例にとって、著作権について書きたいと思います。以前、著作権の侵害にならないかどうかお問い合わせをいただいたき、そのときは、「問題はないと思う」ということでお答えしたのですが、それは私個人の考えにすぎないので、ずっと気になっていたテーマでした。
そこで、調べてみることにしました。最初はネットで検索しましたが、はっきりした情報が見つからなかったので、公益社団法人著作権情報センターの相談窓口に電話して質問しました。まず代表に電話して、著作権に関して質問したいと言うと、相談窓口の番号を教えてくれました。この電話でのお話を元に、私自身の言葉で書くことにします(ブログに書くことは、お伝えしました)。
議論はあるけど裁判になった例はない-法律というシステムの中で…
結論から言えば、現状の法律的システムの中では、問題は起こらないか、起こりにくいと言えます。著作権侵害だとはっきり断定できるのは、裁判所だけだそうで、現状、雑誌のリデザインを就職活動のポートフォリオで使ったことで「著作権侵害」と結論された判例はないそうです。
ただしこれには条件があります。転職活動のポートフォリオと言っても、ブログやサイトにアップして公開するのはNGです。相手先企業に「面接のときに見せる」「履歴書と一緒に作品を郵送する」という条件なら大丈夫だろうということです。面接持参や履歴書と一緒に郵送するのであれば、これを目にするのは本人と相手先企業だけですから、著作権法第30条の私的使用のための複製と考える法律家が多いそうです。
著作権法では、一定の条件のもとでは、無断で複製しても良いケースがいくつかありますが、「雑誌のリデザインをして、就職活動のポートフォリオに載せて使用する」というのも、そのうちの1つと考えて良いと思います。
ただ、これについては議論も以前から存在するとのことです。「どんな議論なのか」までは確認できませんでしたが、いくら著作権法下でOKだったとしても、「これはダメだ」と考える人たちも少なからず存在するということです。ですから、やはり「雑誌のリデザインをしよう」と思ったら、このような人たちも世の中にいるのだと思っていた方が良いと思います。
議論の内容も知らずに書くのもなんですが、ただ1つだけ誤解のないように最初に言っておきたいのは、雑誌のリデザインは盗作ではないということです。また、私が著作権法上大丈夫そうだと書いたからといって、「法律に触れなければ何をしたってかまわない」とか、「バレなければ何してもいい」などと言っているわけでもありません。
訴えるとしたら誰が訴える?
著作権侵害だとして訴えてくる人がいるとしたら、誰でしょうか? それは、雑誌の場合は、その記事の作者で、編集者、記事のライター、写真を撮影したカメラマン、イラストを描いたイラストレーター等ということになるかと思います。場合によっては、デザインしたデザイナーということもあるかも知れませんが、リデザインの場合は、デザインを変更してしまうので、デザイン作品としてそのまま使うことはあり得ないので、デザイナーが訴えることはないだろうと思います。
転職活動のポートフォリオは、個人情報であって、相手先企業と自分自身だけしが見ません。ですから、多くの場合、まず、「誰にも見られない」という状況にあり、著作者は、使われているという事自体「知りにくい」ということはあります。また、たまたま著作者が見つけたとしても「ああ、自分が作った記事が使われているなー」と、思うだけではないかしら? と思われます。
もし訴えられたら…
もし訴えられたとしたら、最終的な判断は、裁判所になるそうですが、先にも書いたように「著作権法第30条の私的使用のための複製」と考える法律家(弁護士、裁判官のような、法律的専門家)が多いということなので、結果として、訴えは取り下げられてしまい、法的に罰を与えられるようなことにはならないと思われます。
また、現状、「雑誌のリデザインをして、就職活動のポートフォリオに載せて使用する」というケースでの裁判は前例がないとのことです。これは、今まで訴えた人、訴えられた人がいないと言えると思います。ですから、「もし訴えられたら」と心配して時間を過ごすのは、時間の無駄ではないかと思います。
議論するのは誰?
ですが、前述のように、このような議論は以前からずっと存在するというのも事実です。ただ、現在の法律のシステムの中では、著作者本人でなければ、法律的に訴訟を起こすことは考えられません。議論する人は、法律的には「外野」にすぎません。
ただ、法律的には「外野」なのかも知れませんが、転職者本人に影響を与えるような立場の人が、雑誌のリデザインを否定的に考える人である、という可能性は十分にあり得ます。
法律では大丈夫だったとしても
もし、否定的な人に出会ってしまったらどうする?
1 相手が知人の場合
相手が既知の人だったら、ちょっと困ることがあるかも知れません。例えば、「一所懸命リデザインをして完成させ、就職活動をする前に、知り合いのデザイナーに見せてアドバイスをもらおうと思って見せたところ、こういうものを作品として使うのは良くない」などと言われたとしたら、困りますね。
でも、こういうときに「どうするか?」というのは、実は結構簡単なのです。「相手の言う通り、雑誌のリデザインをポートフォリオに載せるのをやめるか、相手はそうは言っても、自分は自分の考えで、ポートフォリオに載せるか」のどちらかです。これは、最終的には、自分でどうするか決めるということです。
ただ、私個人の場合は、周囲に否定的なタイプの人はいなかったので、とても助かりました。
2 相手が未知の人の場合
それでは、就職活動の応募先企業の担当者として、雑誌のリデザインに否定的な考えの人がいると仮定したらどうでしょうか? 多くの場合、これは殆ど心配する必要がないと思います。そのような担当者は、「私を面接に呼ばない」からです。おそらく書類選考で落とされ、顔を合わせる機会はないと思われます。
でも、履歴書に添付した郵送の作品集には載せず、面接で持って行ったポートフォリオには載せていた…という場合は、面接のときに始めて何か言われることはあるかも知れませんね。そのときに「雑誌のリデザインをするなんて、けしからん奴」と思われたら、その場で説教をされて不愉快な思いをすることはあるかも知れません。でも、「雑誌のリデザインをするなんて、けしからん奴」だと思われ、それが理由で不採用になるなら、もうその人とはそれっきりです。
ですから、否定的な人に出会ってしまったらどうしよう?と、あまり悩む必要はないのではないかと思います。
まとめ
以上、就職活動のポートフォリオに載せる作品の著作権について、雑誌のリデザインを例にとって書きました。もし、著作権のことで「こういうケースはどうだろう?」と疑問に思うことがありましたら、公益社団法人著作権情報センターの相談窓口に問い合わせてみることをおすすめします。
正直、電話をかける前は「著作権を犯している」と言われたらどうしようと、少し怖い気持ちもありました。でも、電話をかけて、状況がわかり、すっきりしたので良かったと思っています。
また、雑誌のリデザインのやり方につきましては、過去の記事で書いていますが、雑誌のリデザインを、就職活動のポートフォリオに載せる時に少し工夫した方が良さそうなこともありますので、これについては別の記事で書きたいと思います。