グラフィックデザイナーに必須なスキルについて書きたいと思います。
デザインの知識と技術を身につけていること、DTPソフトの習熟が、仕事をする上で最低限のスキルだというのはよく言われていますが、その通りだと思います。
それでは、さらにもっと一般的な「資質」という面で、どんなスキルが必要なのでしょうか?
これは、「どんな人がデザイナーに向いているか?」というところでもあります。
色々な考え方がありますが、わたしは、個人的に「絶対はずせないもの」は「読解力」だと思っています。
「国語力」と言ってもよいかも知れませんが、これは全ての能力のベースにあるものだと思われます。
ただ、「読解力」とか「国語力」とか言っても、「現代国語」の成績が良いかどうかとはあまり関係がありません。
何かデザインすべき原稿をもらったとき、その文章を読んで、
「この部分はタイトルだ」
「この部分はリード文だ」
「この部分は本文だ」
「この部分は見出しだ」
「この部分はキャプションだ」
「この文章が伝えたい内容はこうだ」
「ここにはイラストで説明を入れたほうがわかりやすいかも知れない」
というようなことが、わからないといけないのです。
こういうことを理解した上で、「タイトルだから大きく」とか、「リードだからこれくらい」とか、そこではじめてデザインの知識を使う段階になっていくわけです。
だから、デザインを勉強すれば、誰でもデザイナーになれますが、もともとこういう能力がベースになければデザインをすることはやはり出来ないと思っています。
でも、これは、日本人で文字が読める人なら誰でもある程度できることだと思うので「誰でもできる」と個人的には思っています。
実はこのスキルはほとんどの人があまりにも自然にやりすぎていて、わざわざスキルだなんて言われても、ピントこないのではないかというほどのものなのです。
例えば、今、わたしの手元に、こないだもらったばかりの年賀状があります。
●●●●様 という宛名は大きく、
住所は小さく
差し出し人の名前は小さく
差し出し人の住所はさらに小さく
と、ごく自然に、デザイナーでなくても人は「大きくすべき文字」「小さくすべき文字」というのは瞬時に判断しながら書いています。
ただ、個人差はあると思います。それに、受け取る原稿は、ベタ打ちと言って、テキストデータの全部同じサイズの文字になっていたりすることも多いので、そこは読んで理解するということが必要になって来たりもします。
この「読解する」ということが早い人ほど、アイデアを発想するのにもスピードがあり、結果、仕事を速くこなせるような気がします。
また、「ストーリー」という言葉はよく使われる言葉です。
「ストーリー」というのは、読者やユーザーの視線のナチュラルな動きを理解して、「どこから読み始めるか」「どういう流れで読んでいくか」「どこで終わらせるか」という、文章とレイアウトの流れのことを言います。
こういうところにも「読解力」というのは必要になってきます。
でも、それが「誰でもわかる自然な流れ」というものはある程度あるわけです。
例えば、横書きの左開きの本、タイトルはやはり、ページの上から始めるのが自然ではないでしょうか?
タイトルがページの真ん中にあったり、一番下にあったら、普通の人はどこから読んで、どこへ目線を配ったらよいのかわかりにくいはずなのです。
むしろ、デザイナーになって気をつけた方が良いと思うのは、
「そういう、人間としてナチュラルな流れは重々承知しているけれども、この部分は上に持って来た方が、レイアウト上のおさまりがいいから、ストーリーに問題があっても上に置いておこう」
などというものです。
こういうのは、デザイナーとしての怠慢に思えます。
ここは、ストーリーを損なわずに、なおかつ治まりが良いところを、試行錯誤して見つけてあげるところまでがデザイナーの仕事だと個人的には思います。
デザイナーは、自分のデザインの都合で、勝手に本来あるべきストーリーを損なわないようにしなければならないと思います。
ただ、このようなストーリーの流れを無視したデザインは、お客さんに見せたときに必ず没になります。
「これは上にもってきて欲しいんだけど」などと言われて、修正することになるでしょう。
余談ですが、このように指摘してくださるお客さんのおかげで、このような作品が世に出る心配はないのはありがたいことですが、デザイナーが自らやってしまうと、一度多く修正をすることになり、自分で自分の首を締めるだけならまだしも、会社にもコスト面で損害を与え、いつもこのようなことばかりしていると、お客さんからも会社からも信用されなくなってしまうでしょう。
デザイナーではない一般のお客さんの方が、むしろストーリーには敏感かも知れません。デザイナーの方が、「デザイン」に振り回されて、こういうミスを犯してしまうのではないかと思います。
このように見てくると、「読解力」は、何か特別な能力というよりも「人として自然に感じる流れは何か」を理解するのだと考えた方がいいかも知れません。
ストーリーを無視したり、配慮しないデザインは、「用と美」というデザインの定義に反することでもあります。(>>>デザインは用と美)
また、「読解力」は、「コミュニケーションデザイン」という、グラフィックデザインの役割のベースにもなってきます。(>>>デザインは視覚言語
また、「読解力」は、「デザインは整理整頓である」という、「整理整頓」のコンセプトのベースにもなります。(>>>デザインは整理整頓
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以上のようなわけで、「デザイナーに不可欠なスキルは何か」と考えたときに「読解力」というのが最も大事だと個人的には思っています。